NBAのマイケル・ジョーダン氏と中国企業との間で争っていた商標紛争が8年の月日を経てようやく解決しました。

ジョーダンを表す漢字名「喬丹」を商標登録した中国企業に対してジョーダン側が商標取り消しを求めたこの事件ですが、中国特有のトラブルなので、今回の事件をヒントに中国での商標対策に活かしてください。

中国の国内事情を説明します。中国では外来語は全て漢字に置き換えます。日本では外来語をカタカナで置き換えるのと同じことです。

日本と中国で外来語の表記の方法が共通するのですが、カタカナは発音に対応するカナが一つしかないのに対して、漢字は発音に対応する漢字が複数あります。

このため日本の場合、外来語を表すカタカナは一つしか存在しませんが、中国の場合、外来語を表す漢字が複数存在し得ることになります。

したがってジョーダンを表す漢字名は「喬丹」以外にも、例えば「周蛋」や「粥当」もよく、今回のように中国企業に「喬丹」が商標登録されたからと言って、ジョーダン側がこれを自己の名称と認める必要はなく、違う漢字を自己の名称として使えばよいだけのことです。

ところがジョーダンという外来語が中国に入ってきたときに、最初に「喬丹」を使い、これを商標的に使用し続けることによって、ジョーダンを表す漢字名は「喬丹」というディファクトスタンダードが出来上がってしまいます。

このディファクトスタンダードが完成したあとで、ジョーダンは「喬丹」ではなく、例えば「周蛋」であるという主張をしても、もはや手遅れということになります。

今回のようなケースは決して珍しいことではなく、エルメス社も中国漢字商標で痛い目にあっています。

HERMESの中国語表記は「爱马仕」ですが、HERMES社が中国へ進出した当時は、漢字商標として「爱马仕」を使うことなく、アルファベットのHERMESをそのまま中国で使用していました。

HERMES社が中国へ進出した1997年当時は、今の中国とは全く異なりHERMESのような高額商品を買うような消費者は少なく、かつ外国の有名ブランド名だから本国表示のままでも通用すると考えていた節があるようです。

しかし外来語は必ず漢字に置き換えられるという中国の国内事情のもと、HERMES商品を扱う流通業者等がHERMESの漢字名を「爱玛仕」として使い始めてしまいました。

中国国内でアルファベットのままでは使いづらいので適当に漢字を当てたというのが事の発端ですが、それ以来、中国でHERMESは「爱玛仕」と表記するというディファクトスタンダードが完成してしまい、その商標を中国企業が登録してしました。

2000年に入って中国でのHERMES商品の消費が増えていくに従い、HERMES社も本気で中国事業に取り組むことになったのですが、漢字商標を中国企業に取得されていることがネックとなります。

HERMESは自社で漢字商標「爱马仕」を出願するのですが、「爱玛仕」と類似するという理由で拒絶されてしまいます。

HERMES社が「爱马仕」の商標登録に成功し、かつこれまで中国国内においてディファクトスタンダードだったHERMESの漢字表記「爱玛仕」から「爱马仕」への周知変更に成功するまでに、莫大な費用と時間がかかっています。

中国で自社の商品やサービスを展開するときに漢字商標をまず確保しなければならない理由は上記のようなトラブルに発展してしまうからです。

漢字商標を自社で登録し、これが自社の商品・サービス名の漢字表記であることを最初からアピールすることにより、商品・サービスの漢字表記のディファクトスタンダード化に成功することができます。

しばらく様子をみて人気がでてから中国漢字商標を考えるという姿勢では、ジョーダン事件やHERMES事件と同じような轍を踏むことになってしまいます。